その他の削除要請
雑誌記事
科学雑誌「理科の探検」ウェブサイトの公開停止問題は大きな問題の一部にすぎない。
始まりは、「理科の探検」2019年4月号(2019/2/26発売)に批判記事が出たことであろう。
「NMRパイプテクター」の販売開始(1996)以来ネットでの批判記事は散見されていたが、書籍による批評は初ではないかと思われる。
続けて「消費者法ニュース」119号(2019/4/25発売)でもニセ科学特集が組まれている。
これらを受けて業者が対策を検討し始めたと考えてよいだろう。
トラブル
削除要求など、ネット上のトラブル一覧は次のとおり。
*「JSP」は日本システム企画株式会社
# | 時期 | 請求者 | 被請求者 | 対象者 | 対象者の立場 | 要求内容 | 措置 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
0 | 2001/1/15 | JSP社長 | 天羽優子 准教授 | 天羽優子 准教授 | 研究者 | サイト記事の削除要求 | 記事の修正(コメント付き) |
1 | 2019/5/30 | JSP弁護士 | ツイッター社 | Material300氏 | 購入者 | 仮処分決定に基づくアカウント停止 | ツイッターアカウント停止 |
2 | 2019/6/7 | 持続可能事業支援機構 | 消費者市民ネットとうほく | 天羽優子 准教授 | 研究者 | ツイッターアカウント「消費者を守る」についてのツイートの削除要望 | 対応せず |
3 | 2019/6/17 | JSP弁護士 | 山形大学 学長 | 天羽優子 准教授 | 研究者 | 天羽先生のツイート削除とサイトの運用停止の懇請 | 対応せず |
4 | 2019/7/3 | JSP社長 | 山形大学 学長 | 天羽優子 准教授 | 研究者 | 天羽先生のサイトの運用中止のお願い | 対応せず |
5 | 2019/8/23 | 不明 | ロリポップ! | 理科の探検 | 編集者 | 民事訴訟の仮処分申立に基づく情報削除 | ウェブサイト全体がアクセス禁止(9/5解除) |
6 | 2019/8/29 | JSP | gooブログ | 快適な団地生活を求めるブログ人 | 購入者 | 仮処分申立(?)に基づく公開停止 | 該当記事のみ公開停止 |
7 | 2019/9/3 | 不明 | 日本技術士会 | 技術者教育支援チーム | 技術者 | 要求内容不明 | チーム紹介ページ内の見解書の削除 |
8 | 2019/9/4 | 不明 | 日本技術士会 | 技術者教育支援チーム | 技術者 | 要求内容不明 | 資料庫内の見解書の削除 |
9 | 2019/10/8 | JSP | ロリポップ! | 理科の探検 | 編集者 | 仮処分申立に基づく情報削除 | 進行中(本訴せず?) |
10 | 2019/12/16 | 不明 | 日本技術士会 | 技術者教育支援チーム | 技術者 | 要求内容不明 | 技術士会サイトへの掲載を停止(見解の撤回ではない) |
11 | 2020/6 | JSP | 朝日新聞「論座」 | 編集部 | 記事の配信者 | 記事の訂正 | 2020/7/7に記事の一部が訂正(仮処分の有無) 2020/11/3に記事が公開終了 |
12 | 2021/6 | JSP | Material300氏 | Material300氏 | 刑事事件被告人 | ツイッター等の書込(詳細未詳)への刑事告訴 | 結審 |
13 | 2021/6 | 不明 | Wikipedia | Wikipedia | フリー百科事典 | 削除要請 | 却下 |
14 | 2021/6 | JSP社長 | 理科の探検 | 理科の探検 | 科学雑誌 | 記事の削除 | 対応せず |
15 | 2022/9 | JSP弁護士 | カナガク | カナガク | 教育ブログ | 削除・執筆者情報開示要請 | 一旦削除。後に元記事を再掲載 |
16 | 2023/1 | 差出人不明(自称・愛国者) | 右翼団体 | 複数の大学教員 | 研究者 | 「(大学教員らの)計画の阻止」(意図不明) | 対応せず? |
JSPは2019年の仮処分申立(リストNo.1)が上手くいったので、手当たり次第に削除を求めはじめたように見える。
削除の求めに対し、民事訴訟を懸念して受け入れた者から、記事に問題はないとして対応しない者まで様々だ。
仮に民事訴訟を起こされたとするとサイト側は金銭や時間を浪費することになり、よほどの覚悟がない限り削除で済ませてしまうだろう。とはいえ、朝日新聞や日本技術士会が苦情に屈してしまったことは、表現の自由を放棄してしまったように見える。記事そのものを削除してしまった理由をお伺いしたいところだ。
リストNo.12のMaterial300氏について、ニセ科学の反対者が有罪となった特異な件と言えるだろう。JSPはあたかも「ネット上で反論するものは業務妨害で逮捕される」かのように記載しているが、罪状については明確にしていない。実際の裁判は「業務妨害」ではなく「名誉毀損」で行われたと推測される。
「業務妨害」の場合は宣伝内容が適切かどうかを問われることになり業者としては望ましくないところではないだろうか。これに対し「名誉毀損」は不特定多数が読める形で特定の文章を発したかどうかで判断されるため業者としては「安全」な訴訟となる。
つまり、明らかに不適切な表現を用いない限り、SNS等への否定的な書き込みが直ちに刑事事件に発展するわけではないことに留意されたい。
Material300氏の批判活動の裏には、氏の居住マンション理事にJSPが過剰に関与したことがあるようだ。この「関与」によって氏のマンションでは住民同士が民事訴訟で争う事態にまでなってしまった。
このような争いに巻き込まれた不幸についてはMaterial300氏へ同情を禁じ得ない。
しかし、Material300氏が不適切な単語をネットに書き込んだことは勇み足と言わざるを得ない。
なお、Material300氏は大学教員の記事を引用して批評活動を行なっていたが、これはネット上の記事を再掲したに過ぎず、Material300氏と大学教員が直接連絡を取り合った様子は伺えない。
JSPのサイトでは、あたかも大学教員がMaterial300氏を唆して営業妨害を行わせたかのような記載があるが、それは空想に過ぎないことを指摘する。